(序)
小さな依頼を受けだのだ。この佳人に会って欲しいと。
ようやく国許に引っ込んだ自分に、懐かしい友の大切な子と接点ができるなんて思いもしなかった。
何を話していいか分からなくて、酒を持ってきたけれどその子が酒を好きかも知らない。
だけどどかっと座り込んだ。
「俺、前田慶次っていうんだ。いろんな人に頼まれてさ、あんたに会いに来たんだ――」
ここはとても静かな場所、だが揺れる草木も鳥の聲も慰めにはならないだろう。ただ佳人の傍に咲く侘助椿に伝う雫が彼女の心を表すようで、胸に去来するのは物悲しさだった。
「少し付き合ってくれるかい? 俺聞いたんだ、あんたのこと、沢山」
とりあえず持ってきた二つの深向に酒を注いで差し出したその時、多分自分は泣き笑いにも似た顔をしていたに違いない。